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室長の小部屋

シニアの心をとらえる「おれんじ食堂」

 先月、カミさん(もちろんシニア女性)のリクエストで肥薩おれんじ鉄道の観光列車「おれんじ食堂」に乗ってきた。
「おれんじ食堂」は元JR九州鹿児島本線の一部(熊本県の新八代駅から鹿児島県の川内駅間)を車窓からの美しい景色を楽しみつつ「ゆったり、のんびりとしたスローライフな旅を楽しむ」ことがコンセプト。地元食材の料理や各駅でのお買い物などで女性、とくにシニアの女性に人気が高い。席数が少ないこともあって予約を取るのが難しいほどである。

話題のクルーズトレイン『ななつ星』など、多くの観光列車を企画してきたJR九州と水戸岡鋭治氏のコラボの一つである。

話題のクルーズトレイン『ななつ星』など、多くの観光列車を企画してきたJR九州と水戸岡鋭治のコラボの一つである。

 「おれんじ食堂」は「ダイニングカー」と「リビングカー」の2両編成。私たちが希望した人気の「ダイングカー」の席は団体ツアーの予約が先に入っているということで取れなかった。

私たちが乗った「リビングカー」。「ダイニングカー」に比べ、食べるより、くつろぐことに重点が置かれている

私たちが乗った「リビングカー」。「ダイニングカー」に比べ、食べるより、くつろぐことに重点が置かれている

 「おれんじ食堂」は文字通り「食堂」で、車内に本格的な厨房があるわけではない。出される料理は沿線の駅ごとで積み込み、できたてを「ダイニングカー」や「リビングカー」でサービスする仕組みだ。だから2両編成の気動車を改造しただけの列車だが、口の肥えたシニアでも納得できる料理を出すことができる。

美味しいものを少しずつ。列車でのサービスということを考えて弁当仕立てになっているが、料理は温かい

美味しいものを少しずつ。列車でのサービスということを考えて弁当仕立てになっているが、料理は温かい

 途中の駅で料理を積み込むために「おれんじ食堂」は何度も停車する。その間、列車を降りた乗客に、炭火で目刺しを焼いて振る舞ってくれたり、小さなケーキをかごに入れて差し出してくれたり…。いずれも「ちょっとだけ」だけど心がこもったもてなしも魅力のひとつ。その土地ならではの土産物を買うことも楽しい

振る舞ってくれるのも近くのシニア。シニアの女性たちは気軽に声を掛け合って楽しそう

振る舞ってくれるのも近くのおばさん(おばあさん?)。同世代の女性たちは気軽に声を掛け合って楽しそう

 シニアは胃袋も脳力も意欲も「サイズダウン」している。だから、「ちょっとずつ」をとりどりに楽しめるのが嬉しい。美味しかったら、気にいったら、大きなサイズのものは子や孫、お友達への土産に買い求める。「ちょっとだけ」X「バラエティ」がポイントである。

乗車時に配られるおみやげ引換券。出発前からちょっとワクワクさせる工夫だ。お得感もシニア女性の心をつかむ

乗車時に配られるおみやげ引換券。出発前からちょっとワクワクさせる工夫だ。お得感もシニア女性の心をつかむ

 ある無人駅では車掌さんが「海辺の景色がきれいなので」といって案内をしてくれた。駅は岸辺の砂丘のような所にあり、数分歩くと目の前に玄界灘が広がる。ツアー客のシニア女性3人ほどが若いカップルを見ながら「こんなきれいな景色を一緒に見る人がいたらいいでしょうねえ。でも、もう望むべくもないわね…」などと話しているのが耳に入った。ちょっとの寂しさ、後悔と一人で行動できる開放感がない混ぜになった深い言葉に聞こえたのは私の思い込みからかもしれない。

同じ景色も誰と見るかで思いも変わる。そのあたりの心情を上手く表現すればシニアの旅ごころをかき立てられる

同じ景色も誰と見るかで思いも変わる。そのあたりの心情を上手く表現するがシニアの旅ごころを掻き立てられる

 運転席の横にかわいい椅子が2つ並んでいる。子どもが運転席に座ったように楽しめる工夫だ。感心してみていると、アテンダントの女性が「こんなのもあるんですよ」と見せてくれたのは子ども用の運転士の制服、制帽。これを着て運転席に座れば子どもは大喜びに違いない。どんどん増えている「三世代旅行」を楽しむシニアにこうした工夫をアピールすれば、全国から子と孫を連れたシニアが集まってくるだろう。

祖父母が本人の何倍も喜んでシャッター切る姿が目に浮かぶ。「ジジババ必殺アイテム」である

祖父母が本人の何倍も喜んでシャッター切る姿が目に浮かぶ。「ジジババ必殺アイテム」である

 「ダイニングカー」ではギターの生演奏が始まった。「リビングカー」では残念ながらスピーカーを通じて聴くことになる。線路が海岸線を離れて車窓の風景が単調になるタイミングで、乗客の「耳」を楽しませる工夫だ。ちょっと懐かしいポップ・ミュージックが多い。

沿線ではかわいい孫のような幼稚園児たちが旗を振って見送ってくれるのもシニアにはうれしい。

沿線ではかわいい孫のような幼稚園児たちが旗を振って見送ってくれるのもシニアにはうれしい。

今回、「おれんじ食堂」でたまたま女性限定のひとり旅ツアーの方々と乗り合わせた。始発駅に行ってみるとシニアの女性の団体が待合室にいて、ツアーコンダクターらしき女性が「はい、お楽しみのくじ引きですよ」といっている。何のくじ引きだろうと思って見ていると席を決めるくじ引きのようだ。

 そのときは「ふーん」と思っていたが少しして、家族やグループで参加しているのをバラバラにくじ引きするのも変だなあと思ったが、すぐに「そうか、お一人さま限定、しかも女性だけのツアー」だと気がついた。ひとり旅ばかりの団体ツアー、あとで添乗員の方に聞くとクラブツーリズムの『ひとりっち』というプレミアムツアーとのこと。

このツアーは2泊3日で10万円を超えるリッチなツアーだ。友人とよく格安ツアーに出かけるカミさんが言うには「これくらいの高価なツアーは友人を誘いにくい。逆にいうとこの値段だからひとり旅が成立する。旅行期間の長い海外ツアーも友人だとお互いの都合の調整が難しい。だから家族のいない人は自然と『おひとりさまツアー』になる」そうだ。

 「ひとり旅は家に帰るためにゆくもの…」若いころに読んだ本に書かれていた言葉を思い出した。シニア、とくに団塊の世代が若いころにしたひとり旅は今の「おひとりさまツアー」ではなく「自分探し」の「センチメンタル・ジャーニー」だった。折しも国鉄(現JR)が「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを始めた。1970年10月、大阪万博が終わってすぐのことだ。

国鉄はキャンペーン開始と同時にテレビ紀行番組『遠くへ行きたい』を提供。
マルチタレントのはしり、永六輔が全国を旅して、土地の名所や住民とのふれあいを紹介する番組だった(現在も放映されている)。

永六輔が作詞した同名の主題曲を聞くと懐かしい思いに駆られるシニアは多いはずである。この「ディスカバー・ジャパン」キャンペーン名の『ディスカバー』は旅先での発見、出会いだけではなく、旅にでて自分を再発見するという意味も込められていたという。

人は自分の人生のうち、20代をピークに、10代後半から30代前半までの青春時代の記憶を突出して多く思い出す現象を「レミニッセンス・バンプ」と呼ぶ(光文堂新書「ご老人は謎だらけ」佐藤眞一 著)。

このことを団塊の世代に当てはめてみると1964年(東京オリンピック)~1985年(バブルの手前)くらいに当たる。対象となるシニア世代の青春時代になにがあったか、どんなことに当時の若者が心動かされたのかを研究しておくことがシニアマーケティングに欠かせない。

団塊世代の旅を考えるとき、上記の『遠くへゆきたい』の歌詞「知らない街を 歩いてみたい、どこか遠くへ 行きたい…」という心情を理解することはその一例である。

1964年の東京オリンピックからわずか4年で大阪万博。団塊の世代はこうした激しい変化の時に青春時代を送っている

1964年の東京オリンピックからわずか4年で大阪万博。団塊の世代はこうした激しい変化の時に青春時代を送っている

 列車で揺られるせいか、ビールのまわりも早く、いい音楽を聞きながらついうとうととしてしまう。この平日の観光列車に乗っている客の平均年齢は明らかに60才を超えている。いや、もっと高いかもしれない。男性客は1割以下。今の日本の旅行の縮図である。美しい風景やおいしい料理を堪能したが、一方、シニアが経てきた「ひとり旅」から「おひとりさまツアー」へ。旅の意味についても考えさせられることが多かった「おれんじ食堂」の旅だった。

降りるときには、途中の駅でもらったおみやげや、買い込んだ名産品で紙袋は満杯に

降りるときには、途中の駅でもらったおみやげや、買い込んだ名産品で紙袋は満杯に

  日本SPセンター シニアマーケティング研究室 室長 倉内直也

<シニアマーケティングに関するお問い合わせ>こちらのメールアドレスにお気軽にご連絡下さい。

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