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高齢者ドライバーが抱えるリスク               ー交通心理学の専門家に聞くー

最近、高齢者ドライバーによる「逆走」や「急発進」による事故の報道に接することが多い。交通事故死(歩行者も含む)に占める高齢者(65歳以上)の割合は実に53.3%と半数を超える。高齢者はがんや認知症といった病気の他にモビリティの場面でも大きなリスクを抱えている。

 そのような現状の中、先日、帝塚山大学副学長 心理学部教授の蓮花一己先生から高齢者ドライバーの行動特性について直接お話を伺う機会を得た。お聞きした話の中から多くの知見を得たのでそのエッセンスをご紹介させていただく。

蓮花一己(れんげ・かずみ) 帝塚山大学心理学部教授・副学長 専攻:交通心理学 産業心理学 第9次交通安全基本計画策定専門委員

蓮花一己(れんげ・かずみ) 帝塚山大学心理学部教授・副学長 専攻:交通心理学 産業心理学 第9次交通安全基本計画策定専門委員

交通事故に占める高齢者の割合が増えている

 同じ距離を走ったら、高齢者の方が事故率は高い。でも高齢者は元々、距離を走らなくなるので年齢が上がると急激に事故率が上がるかというとそんな単純ではない。同じように同じ道を同じ距離を走ると仮定したら、少し上がります。高齢者は能力的には危ないが、事故率という点で言うと、そんなに急には上がるものではありません。

 20年以上前と比べると、事故のうち高齢者の占める割合が増えているのは、若い人が減り、さらに運転する人も減っている一方、団塊の世代を境に高齢者の免許保有率が高くなり、どんどん高齢者ドライバーが増えているからです。

高齢者及び高齢者以外の死者数の推 出典:警視庁 

高齢者及び高齢者以外の死者数の推移 出典:「平成27年版交通安全白書」より 

「事故傾性」は年齢とあまり関連はない

 「ある個人の事故を起こしやすい特性=事故傾性」の要因のうち、パーソナリティ、知的能力、精神運動機能などは年齢ではあまり変化しません。知的能力などは、もちろん変わりますが、ある程度連続しているので、一定と考えていいと思います。もちろん加齢に従って徐々に低下しますし、高齢者に関してはどこかに限界はあります。また、認知症といった病気が原因の場合は劇的に変化するので注意が必要です。

地域での事故数と高齢化率の関係は薄い

 高知や香川で高齢者ドライバーの研究をしています。地方は高齢者が多い。香川県は高齢者に限らず事故が多い。人口当たり日本一です。過去10年間ワーストワンを4,5回とっている。しかし、もっと高齢化の進んでいる所もあります。原因は高齢化率ではなく、交通密度が高く、事故多発交差点が多いためと考えています。

高齢者は交差点での事故が多い

 出会い頭の事故や右折などいろいろです。それは信号交差点に事故の原因となる危険因子が多く、いろいろ確認して対応しないといけないので脳にかかる情報処理の負荷が高いからです。高齢者はその負荷に対応しきれない。たとえば見るべき場所が5つある場合、1つは見るが、2つになると怪しくなり、3つではわからない。こういう瞬時にいろいろなことに対応、判断する能力は高齢になると衰えます。

見えているようで見えていない

 老眼や白内障などの視力が原因のこともありますし、脳の処理能力、判断力の関係もあります。認知が遅い。判断も遅い。視覚障害やグレーゾーンなど自分でもなかなか気づかない。視野障害が起こっていても、目の欠損部分を脳が埋めてしまう。見えているが見えていない。自分では気づかないので、注意が必要です。

赤信号

高齢者の信号無視の原因は見落としが多い

 フィードバックをできるものはある程度わかる。たとえば耳が遠いというのは家族から言われる。新聞が読みにくくなったら、メガネを変える。比較的そういう心身機能は自分でわかる。しかし、ものが見えにくくなっているのに運転のレベルでは見えている気になる。信号が赤と知りながら信号無視する高齢者はそんなにいない。ただ信号自体に気づかない、赤信号に気づかない、といケースが多い。

白昼夢を見ているようなことも

 以前、奈良で高齢者が関わる死亡事故の現場を調査したことがありました。高齢者がなぜ事故を起こしたかをずっと見て回りました。場所が原因のこともあります。その場所や事故の状況等の情報を見てから行くのですが、ある場所では、事前に「信号が見えにくいのでは」と思っていても、実際はよく見えた。

 ではその事故(高齢者が加害者となった死亡事故)はなぜ起こったのか。調書によると、「考え事をしていた」。ドライバーは75歳。その日、筍を掘って、友達に届けに行った。何を考えていたかというと、筍をもらった時の友達の喜ぶ顔が浮かんだと。白昼夢みたいなものです。そのまま信号無視をして事故になりました。高齢者は視野の問題で赤信号などを見落としやすいが、加えて、注意が内に向いてしまうこともある。自分の中で考え事をしている。「ぼんやり運転」になります。

逆走も「ぼんやり運転」が原因

 信号無視が高齢者に多いのは事実です。若い人も多いが、若い人はもちろん考え事もするが、友達との会話や何かを触っている、いわゆる脇見です。高齢者は前を見ているが、見落とす。もちろんそれだけを研究したものはないので、事例でしかありませんが、状況判断が甘くなっていると考えています。

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ルートを決めるといった判断的なものは高齢者の脳に負担をかける。ときには判断をスルーしてしまう

 最近多い高速道路の逆走。昔はサービスエリアに入った所から出てくるケースが多かった。これは起こす所が決まっているので施設が改善されてかなり減ってきました。最近多いのはインターチェンジ。道を間違えて戻ろうと逆走する。それと合流帯の所で右折する。こうしたことはちょっとぼーっとした時や注意がそれた時に起こるようです。

「ハザード知覚=危険予知」の弱さ

 とくに高齢者は潜在的ハザード知覚が弱い。高齢者も高速道路などで、前に車がガッと割り込んで来る時は危ないと思う。でも合流の所で後ろから接近して来る車には危険を感じない。普通はその車が自分の前に来るか後ろに来るか気になるが、高齢者は危ないと思わない。行動予測があまりできない。見えているが、自分には関係がないと判断してしまう。右折待ちや、駐車場から出て来る車などラインが交差する可能性のある車は普通は気になりますが(ハザード知覚)、高齢者はその部分の知覚の弱いことが判明しています。

情報の流れや状況の変化への気づきが弱い

 交差点での出会い頭の事故が多いのはそのせいです。交差点は危ないとみんな思うが、高齢者はそれを危ないと思わない。だから減速して確認しないで、進む。高齢者のその行動と「危ないと思う=ハザード知覚」はかなり関係しています。見えて、初めて自分の所に来て、危ないと思う。即応的です。ギリギリにならないと、危ないと思わない。だから事故の原因は「あいつが飛び出して来た」となる。実際はそこに以前からいて見えていたはず。極端なケースでは前しか見ていない。

高速道路の怖さを習っていない

 最近の研究で、高齢者は高速道路の料金所付近でよく事故を起こす。料金所はパッと視野が広がる。すごく安全に感じる。それで簡単に車線変更をする。それが原因の接触事故が多い。それを調べるためアイカメラをつけてもらうと、見ていないことが多い。映像を見て、どれくらい危ないと感じるかというと、教習所の指導員や一般のドライバーはかなり早めから危ないと思い、後ろが気になる。後ろを見ている。でも高齢者は気にならないから、後ろを見ない。

 これは高齢者に共通している。高速道路のそういう傾向の一つには経験が少ないから。今の30代、40代は高速教習を受けている。高齢者は若い頃にはなかった。ちゃんとした知識を持たないままに高速道路を運転している可能性があります。つまり,高速道路の運転では,加齢の影響に加えて,世代差の影響もあると思います。

自己評価とのギャップが大きい

 自己評価はどの世代も高いものです。ただし高齢者は運転能力がグッと低い。ギャップが大きい。だから運転能力が落ちているのに、それを自分で自覚できていない。自信だけはある。30年、40年無事故、無違反という人はたくさんいる。「事故を起こすのは若い人、乱暴な運転をしているから。俺は関係ない。」と思っている。

 高齢者はスピードは出さないが運転にメリハリがない。交差点に近づいても減速しないので、時間的に周囲を確認する余裕ができない。その余裕を作って、しっかり確認することが大事なのですが。高齢者になると、視野も狭くなるので、ちゃんと確認をすることが大切です。

定期的に自分の運転能力の診断を

 高齢になると小さい事故を起こすようになる。たとえば自分の家の車庫でこする。これは要注意。細かいことができなくなっている。だけどそういうことがなくて、大きな事故を起こすこともあります。広い車庫だと気づかないからです。本当は健康診断のように定期的に自分の運転能力の診断をしてもらえばいい。さらに高齢者になる前、60歳前後に教習所できちんとチェックしたらいいと思います。

道路も高齢社会対応に

 今の日本の道路は日本人が若かった頃に作られています。高齢者には何がいいかはこれから。道路自体も変えないといけません。サービスエリアも一定の間隔であるが、高齢者対策を考えるなら、本来はもっと間隔を短くしないといけない。標識の文字も、もっと大きくしないといけないのではないか。今は道路構造令で決まっているが検討が必要です。高齢者に優しい車や道路を作っていったら、日本は世界の模範にもなれます。

女性の高齢者ドライバーが増える

 高齢者の比率は上がってきているが、高齢者の事故そのものは減ってきています。だから事故はちょっとずつ減っている。ただ減り方が他の世代に比べて少ない。団塊の世代が高齢者になり高齢者ドライバーが増えてくると、事故が増える可能性があります。

保有数 

 さらに女性ドライバーが増えます。今、女性の後期高齢者の免許保有率は5割に満たない。しかし、団塊の世代から下になると、8割くらいになる。もう10年くらいで女性の高齢者ドライバーが増える。一般的にいうと男性の方が危ない。自信過剰だし、女性の方が慎重かと思います。でも女性は女性の事故があります。たとえばアクセルとブレーキの踏み間違えは女性も多い。まだ女性の高齢ドライバーの研究はほとんどない。次は高齢女性ドライバーの研究をしようかと考えています。

自分の運転を考え、カーライフを長く

 私は高齢者の免許返納にはあまり賛成ではありません。もちろん認知症や病気は仕方がない。一般の高齢者ができるだけカーライフを長くするのは、その人のためにはいいと考えています。車がなくなると、高齢者の生活の質がぐんと落ちます。今まで行けていた所に行けなくなるので、家に引っ込んでしまう。寝たきりになれば、元も子もない。早めに運転診断を受けるとか、自分で気をつけて自分の運転を考えるとか…、健康診断と同じです。目が悪いと思えば、夜の運転は避けるなどして、長くカーライフをエンジョイしていただきたいと思います。 

       平成27年4月27日 帝塚山大学にて 
       聞き手 シニアマーケティング研究室 倉内

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