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シニア層のインターネット利用に関する調査研究を電通と共同で行なっている橋元良明(東大教授)さんによれば、「60代でいえば、2005年時点で25%くらいしかネットを利用する人がいなかったのが、10年になると49%が利用。新しい12年調査では57%が利用しています。利用する人の数の伸び率が60歳以上の方はすごく高いのです。70代でも12年には25%弱の人が使っています」(日経 2013.02.08)とのことである。この調査結果を踏まえて、橋本さんは「高齢者はIT(情報技術)が苦手という認識は、改める必要がある」(同)と語っている。
ところで、高齢者のデジタルデバイドが問題になりだしたのは、そんなに昔のことではない。2006年、ウェブ・ユーザビリティの導師ニールセンは彼のコラム「Alertbox」でつぎのような警鐘を鳴らしていた。
「デジタルデバイド」とは、特定の人たちが新しい経済環境から得られる利点が他よりも多く、有利だという状況のことだ。ほとんどの評論家は、この状況を純粋に経済的な視点でしかみない。しかし、別の2つの格差のほうが、将来的には大きな問題になるだろう。
– デジタルデバイド: 3つのステージ(Alertbox日本語版 2006.11.20)
ニールセンがあげた格差とは次の3つ、1)経済的要因による格差 2)ユーザビリティの格差 3)活用性の格差。このうちち、2)と3)が、彼の云う「将来的な大きな問題」となる格差であった。
それから7年も経っていない現在、冒頭にあげた橋本さんの調査をみると、これら「大きな問題」はすでに解決済みであるような印象を受ける。事実、団塊の世代に限って言えば「総務省の通信利用動向調査によると、11年の60~64歳のネット普及率は73.9%」(日経 2013.02.21)とのことで、ニールセンのあげた「別の2つ」のうち「活用性の格差」については、「苦手という認識は改める必要がある」レベルに達しているのがわかる(それでも4人に1人はネットを利用していないのだが)。これから先、団塊の世代のデジタルリテラシーが低下するとは考えにくいので、高齢者のデジタルデバイドが解消していくであろうことは、わざわざ東大の先生に言われなくても予想がつく。
しかしながら、こんな状況でも依然として立ちふさがる大きな障害物が存在するのである。ネット利用に限って言えば、高齢者の敵は、「デジタル」(情報技術)ではなく「エージング」(老化)にある。この一点に関して、導師ニールセンの警鐘はいまだに有効である。
高齢者は、アクセシビリティの障碍にぶつかる 2 番目に大きい層だが、こちらでもウェブサイトを高齢者たちが使いやすくする方法にはあまり関心が集まらない。このユーザ層をターゲットユーザにしても、コストを回収できないという言い訳は通用しない。なぜなら最近の高齢者たちは、裕福だからだ。高齢者がインターネット利用者数の中で一番伸びている層であっても、企業たちは、未だ若年層に気を取られ、裕福でリピーターになりやすい年輩たちをないがしろにし続けている。彼らを相手に商売をしようと思う人がいたら、どれだけ儲かるだろう。
– 同上
嘘だと思ったら、名だたる企業のウェブサイトを覗いてみればいい。たとえばトヨタ。このトップページを入り口にしてクラウンのハイブリッド技術を学ぶことは、シニアにとって苦痛以外の何者でもないということに、企業は気がついているのだろうか。
↑スライド式に移り変わるトップページ5枚のうち「ReBORN CROWN]」が2枚を占めている。このバナーをクリックすることに気がつくなら話は早いが、それでも確率は2/5(筆者)。
↑クラウン「プレミアム・ハイブリッド」のページ。10ポイントの小さな文字で書かれた1行65字の文章は、「シニアは読まなくていい」というメッセージなのだろうか(筆者)。
まさかクラウンを売るのに「若年層に気を取られ」ているとは思いたくないが、導師の判定は厳しい。ちかちかする画面や、虫眼鏡なしでは読むことができない小さな(そして読みにくい)テキストを改めないかぎり、「裕福でリピーターになりやすい年輩たちをないがしろにし続けている」ととられても仕方がない。
シニアにとって、エージング(老化現象)はやっかいな問題だ。とくに視力の衰えは、ネット利用に影を落とす。操作が煩わしいのにスマホを使いたがるのは、高精細ディスプレイでテキストを大きく鮮明に表示できることが、シニアにとってはありがたい事だからだ。PCの画面でも事情は似たようなものである。というより、「数値的な改善で見る限り、環境はモバイル機器よりも劣悪」(ニールセン)なのだ。300PPIの42インチモニターが普通になれば話は別だが、一般向けPCの画面はいまだに17~24インチ(ワイド)で100PPI程度。絶望的とは言えないが、300PPIの画面に比べると読むスピードは「劇的に」落ちる。ちなみに、カカクコムで売れ筋は21.5インチ(解像度1920×1080≒100PPI)。
※PPIは1インチあたりのピクセル数。これはレーザープリンタの性能を測る尺度であるDPI=1インチあたりのドット数に相当する(ニールセン)。
それでは、ネットにシニアを呼び込みたい企業はどうすればいいのだろうか。傾向と対策は次回に。
(津川義明)
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