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室長の小部屋

「戻る」ボタンの大切さ

 人は何かをしようとするときに、ほとんどの場合はそれまでの経験にもとづいて行動する。経験がないときは学ぶ、教えを請う、といった対処をするが、日常のちょっとしたことは過去の経験から類推して行動することが多い。

 「勘」ということばがそれに近い。辞書をひくと「勘」はいくつかの違った意味がある。その一つに「五感では感じないことを感じ取る、一種の感覚、能力。第六感。さとり」ということが記されている。自分のこれまで得た知識や経験則で正しい判断ができないときに「勘が働かない」ということになる。

 文明の進化は加速度的に進む。だから文明生活に限っていえば、高齢者はどんどん自分が持たない知識や経験則が増えてゆく。私も若い折、地下鉄の切符の自動販売機が急に多機能になった。高齢者が戸惑っているのを見て「自分もいずれ、ついて行けなくなるのかなあ」と感じたことを思い出す。実際、ついて行けなくなって、イライラすることも多い。「勘」が働かない。最近はICカードになって助かっている。こんな進化は大歓迎だ。

 高齢者は「階層構造」に弱い、とは老人行動学の先生のおっしゃる通り※光文社新書「ご老人は謎だらけ」佐藤眞一。地下鉄の乗車券販売機を例に取ると、「先に人数を選ぶ」「乗り換えルートを選ぶ」「行き先の金額を押す」などという手順が「階層構造」になっている。電子回路が登場するまで一般の人に「階層構造」を理解する必要がなかった。80年台の乗車券販売機には「銀座」というボタンの下に「80円」と書いてあり、それを押すだけで切符が買えた。

利便性を考え、選択肢を増やした結果、操作が複雑に

 家電製品もしかり。「入」にすれば機嫌よく動き、「切」すればすぐに止まる。マイコンが組み入れられ、さまざまな機能が付加されてくると「階層構造」に対応した操作が求められる。ここに「階層構造」脳の開発技術者と「単層構造」脳のユーザーのギャップが生まれ始める。取扱説明書は厚くなり、高齢者はついて行けない。自分が知っている切符の買い方は「顕在記憶」から「潜在記憶」に変化する。やり方がわからないというと、サービスや製品を提供する側からは「そばにやり方が書いてあります」「説明書に書いてあります」、なんで分からないの…という顔をされる。自転車に乗れるから一輪車に乗れるとは限らない。どちらもバランスの取り方なのだが。

 高齢者への調査では、便利な暮らし、楽しい時間を過ごすために、新しい機械やデジタルの仕組みを使いたいと考えている人が約5割いる(日経産業地域研究所の調査による)。使いたいとは思わなくても、切符の販売機のように、使わざるを得ない機械やシステムもある。
そこで機械やシステムの設計をされる方にお願いしたい。必ず「戻る」ボタンを付けておいて欲しい。

 パソコン、デジカメ…ボタンにちょっと触れただけで、邪魔な機能が現れることがある。それを止めようと思っても取り消し方がわからない。とくに新しい機械やデジタルの仕組みは「行く」が優先になりがちだ。デジカメでなぜかいつも連写をしている高齢者の方に聞くと、ある時からそうなったが、戻す方法がわからないという。

 若い人は自分で試しながら問題を解決して、その手順を体得し、その手順を覚える事ができる。しかも「勘」が働くと問題も解決しやすい。ところが高齢者にとって新しいサービスや機械の操作でわからなくなると、「勘」が働かないので、なかなか解決策が見つからない。そこで、失敗したところに一旦戻って、もう一度、やってみる、というのが一般的な解決法である。たまたま解決してもその手順をすぐに忘れてしまう。

 道に迷った時は、迷ったところに戻って正しい道を選ぶのと同様に、操作がわからなくなったら、失敗したところに一旦戻って、もう一度やってみる。でもそれができない場合が多い。どんどん、迷路にはまり込み、症状は悪化する。「戻る」「リセット」のボタンがあればいいのに…と途方に暮れる。一つ戻って考える、それでも解決しないときには、もう一つ戻って考える。それでもダメなら、最初からやってみる、そんな戻り道を確保していただきたい。

 人生に「戻る」「リセット」のボタンはない。せめて、パソコンやデジカメ、切符の販売機は簡単にやり直しができるよう「戻る」ボタンを忘れないでほしい。

 (倉内直也)

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