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ロボット介護機器に「理解不足」というハードル(下)

(上から続く)
東京都福祉保健局の調査では、4タイプのロボット介護機器それぞれについて、「利用しない」(意味的には厳密には「利用を希望しない」)理由を尋ねている。4タイプそれぞれに傾向が異なることが興味深い。

図6.は移乗介助用機器の不利用理由。「価格が高そうだから」が56.3%とトップ。次いで安全性への心配が続く。
価格の高さに関しては、普段目にすることが少ないことに加え、量産メリットが効かないという連想が働くかもしれない。安全性に関しては当然、評価試験や実証試験を経た上での上市なので、理屈の上からは問題ないはずだが、やはり生身を機械に委ねることへの抵抗感はぬぐいきれないものと見える。
反面、機器の操作や人的対応で充分と言う回答は比較的少ない。

図7.は移動支援用機器の不利用理由。「安全性に心配があるから」が51.6%とトップ。次いで価格の高さが続く。移乗介助用機器とは、ワン・トゥーが入れ替わった形になった。
移動支援用機器とは、所謂、歩行アシストカートなので、戸外での利用をまずイメージする影響があるだろう。価格については、機能の多寡に加え、「相場」が分らないことも影響していると推察できる。

図7.は見守り用機器の不利用理由。「プライバシーが確保されるのかが心配」が63.8%と、他の選択肢を圧倒する勢いだ。他の項目は多くても15%をやや超える程度で、利用阻害要因はプライバシー問題にほぼ集約されると言ってよい。
「見守り」という言葉から受ける印象により、常時監視をイメージする方も多いからだろう。

ただ、見守り用ロボット介護機器は最もイノベーションの恩恵に預かっている分野でもある。
たとえば、大和ハウスの「シルエット見守りセンサー」。IT技術を活用し、居室にいるシニアの様子を離れたところから画像で確認できるものだが、プライバシーにも配慮して、見守りはカメラ映像ではなく赤外線センサーに拠る。介護者はセンサーは感知したシルエット画像で確認する。
真っ暗な部屋の中での異状を検知するなど、優れた機能がいくつかある中で、「24時間【監視】されているという精神的負担が少ない」というメリットは被介護者にとっても計り知れない。
このように最新事例を「知る」ことで、非利用理由はずいぶん払拭されてゆくはずだ。

図7.はコミュニケーションロボットの不利用理由。トップは「人で十分対応できると思うから」(46.0%)、次いで「機械に介護されるのは嫌だから」が続く(36.7%)。双方とも、マシーン・インターフェイスへの抵抗感が滲み出ている結果となった。
前回のアーティクルで触れたように、機能の曖昧さや、接触経験の乏しさが、拒否反応につながっていると思われる。

最後に、東京都福祉保健局がほぼ同時期に実施した、コミュニケーションロボットの利用意向についてのデータ(図10.)をご紹介しよう。調査名「高齢者の生活実態」とあるように、こちらは65歳以上の高齢者を対象にした意識調査である。
このデータでは、「利用したいと思わない」人が全体の61.3%にも上っている。反して「利用したい」人はわずか10.8%に留まっている。
非高齢者を対象とした「高齢者施策に関する都民意識調査」では、65歳未満の60代の「利用したくない」人は全体の28.1%。一方「利用したい」人は45.2%に上っていた。(前回のアーティクル参照)

設問設計等調査のスペックが異なるので、単純比較はできないが、想像以上の乖離をどのように解釈すればよいのだろうか?

介護機器の多くはその名称のイメージに引きずられることが多い。しかし、ITやロボット技術の進展により、この分野での技術革新は日進月歩でもある。
年代が上るにつれて、需要は高まる一方、機器の理解度は衰えてゆく。メーカーや事業者には、よりわかりやすく伝える「製品説明責任」が今後ますます問われてくるのは間違いない。

株式会社 日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男