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「高齢者」は75歳から?

年明け早々、日本老年学会、日本老年医学会のワーキンググループから「高齢者の定義と区分に関する、日本老年学会・日本老年医学会 高齢者に関する定義検討ワーキンググループからの提言」※1というかたちで「高齢者の定義を75歳~89歳に」という提案がなされ大きな話題になった。

・65~74 歳→准高齢者 准高齢期 (pre-old)
・75~89 歳→高齢者 高齢期 (old)
・90 歳~→ 超高齢者 超高齢期 (oldest-old, super-old)

という定義にする提案。その根拠として近年の高齢者は 10~20 年前と比較して老化が 5~10 年遅くなる「若返り」現象がみられる。とくに 65~74 歳の前期高齢者は、心身ともに健康的で、活発な社会活動が可能な人が多いためとしている(※1より)。

上記の提言の意義は
(1) 従来の定義による高齢者を、社会の支え手でありモチベーションを持った存在と捉えなおすこと
(2) 迫りつつある超高齢社会を明るく活力あるものにすること
としている(原文のまま)。
※1(概要)
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/proposal/pdf/definition_01.pdf

この提言に関して、現在の「健康寿命」が75歳に達していない中で(男性71.2歳、女性74.2歳)で高齢者の定義を75歳からというのは行き過ぎではないだろうか。私は70歳からとするのが妥当ではないかと考える。ただ、これまでの65歳から高齢者という定義は現状にそぐわなくなっていることは確かだ。

また先日、内閣府が「高齢者」の定義をこれまでの65歳から70歳以上に引き上げるよう提案すると分かり話題になっている。
日本経済新聞の記事によると内閣府は技術革新などがなされない場合、2030年には生産年齢人口が1%減少すると想定。高齢者の定義を70歳以上に引き上げることも提案するという。
表向きは生産年齢人口の減少を高齢者の就労で補おうということだが、本音は高齢者を70歳とすることで

・企業の定年、延長雇用義務を70歳とする
・年金支給開始年齢を65歳から70歳に引き上げる
・医療や介護サービスで、高所得の高齢者の負担を増やす

といった施策を実施する地ならしともとれる。

先の学会の提言で「高齢者の定義を変えることと年金支給の年齢を引き上げることは別の話」と、釘はさしているが国としては我が意を得たりだろう。

こうした学会の提言や国の政策とは別に、一般の人は何歳からが高齢者と考えているのだろう。現在、国を始め、企業なども65歳からが高齢者という定義が定着している。

2016年版の厚生労働白書によると、昨年の2月に行ったインターネット調査で「何歳から高齢者になると思うかという問に「70歳以上」が最も多い41.1%の回答、以下「65歳以上」が20.2%、「75歳以上」が16.0%、「60歳以上」が9.8%と続く(下記グラフ参照)。

(厚生労働省 2016年版「厚生労働白書」より)

中でも60歳から69歳のシニア世代のほぼ半数が「70歳以上」と回答している。これはシニア世代の実感だと思う。
これまでグループインタビューやアンケート調査を行っての感じることはシニア世代の「後ずれ」である。団塊の世代が65歳を超え、健康寿命は男性が71.2歳、女性が74.2歳と70歳を超えている。

働く高齢者も増えている。2015年には65歳以上の就労者は729万人、1990年の2倍近くになった。

(厚生労働省 2016年版「厚生労働白書」より)

65歳から69歳での就労率は41.5%、70歳以上でも13.7%が働いている。60歳を過ぎたら定年で仕事をやめて、孫を遊びながら悠々自適に暮らすというのは、夫婦に子ども二人で団欒というのと同じように「過去の幻影」になりつつある。

今後、65歳以上の就業率が上がり、二人に一人は70歳まで働く時代はもうすぐそこに来ている。さらに「何歳まで働きたいか」という2013年の調査では「70歳ぐらいまで」から「働ける間はいつまでも」の割合は65.9%にも上る。つまり3人に2人は70歳以上まで働きたいと考えている。

(上記いずれも厚生労働省 2016年版「厚生労働白書」より)

とすれば、生産年齢人口の減少にともない高齢者の就労機会が増えれば、70歳まで働くことは普通になる。更に健康寿命もわずかずつではあるが伸びてく中で高齢者は「70歳から」というのは社会の通念として定着するに違いない。

しかし、注意すべき点がある。それは人間の肉体的能力の変化は社会の変化に比べ、ずっと緩やかであることだ。70歳定年になれば多くのビジネスマンが老眼や白内障に悩みつつ書類やパソコンと向き合わなければならない。少しデータは古いが70歳の白内障罹患率は84%~97%に達するとされている(平成14年厚生科学研究費補助金「21世紀型医療開拓推進研究事業:EBM分野」分担研究報告書による)。長年のストレスに痛めつけられた脳は記憶力や注意力の低下をもたらし、大きな事故につながる恐れもあるだろう。

高齢者を70歳とすると高齢者に定義されないシニア(文頭の提言でいう「准高齢者」)に対する働く環境でのフォローが求められる。たとえば

・ITを活用した働き方改革
・社用車の運転サポート・システム導入、
・情報セキュリティシステムの強化、
・ロボットスーツなどのアシスト機器の普及

などITやAI、ロボットテクノロジーがシニアの脳や身体の能力を補ってくれるだろう。加えて80歳を超える健康寿命を達成するための公私のヘルスサポートが必要だ。

高齢者を70歳からと定義し、「超高齢化社会」ではなく「高齢化を超える社会」を目指すときのマーケットの風景を思い描いて置く必要がある。

株式会社日本SPセンター シニアマーケティング研究室 倉内直也