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シニアの足元 アシックス「PEDALA」と「歩人館」―シニアマーケティング成功事例 (3)

「足元を見る」とは本来、人の弱みに付け込むことをいうが職業によっては「足元=靴」でその人を判断することもあるようだ。ブログを読み歩くと、とくにファッション関係や接客業の方にその意見が多い。靴の本場、イタリアのことわざに「その人の人格は、その人が履いている靴をみればわかる」というものがある。いずれも靴の値段(それも無視はできないが)ではなく、センスや手入れの行き届きが問われているのだが…。

で、シニアの足元である。靴と言うのはファッションアイテムの中でもとりわけ機能性が問われる。若い時にはピンヒールや先の尖ったDCブランドの靴も我慢して履けた。リーガルの重い革靴も苦にならなかった。が齢を重ねるとそうはゆかなくなる。足の柔軟性は少しづつ失われ、靴が痛みやむくみ、転倒の原因になる。「歩くのが辛い、怖い」というのはシニアの生活のさまざまな問題へつながるので、シニアのQOLにとって靴選びは重要な意味を持つ。

だからと言って、今のシニアは機能性のみに特化した(としか私には思えない)いわゆるシニアシューズで満足するのだろうか。しかも65歳までは外で働くのが当たりまえの昨今である。70歳を超えても職場や客先でシニア向けシューズを履いているわけにはゆかない人もいる。なにより靴は「外出するとき=社会に出てゆくとき」に履くもの。人はどんなに歳をとっても「他人(ひと)目」を気にする生き物である。しかし、足元は確実に老いているとすれば、シニアの靴には他人(ひと)に見られても恥ずかしくない(できれば自慢したい)ファッション性はもちろん、衰えた足をサポートしてくれる機能性が求められる。

そこでシニアマーケティングの事例として注目したいのがアシックスの展開するウォーキングシューズブランド『PEDALA』と、その販売チャネル『歩人館』である。しかし、いずれもシニアを対象に始められたものではない。『PEDALA』は30年前からアシックスが「『足に優しく歩きやすい靴』をめざして、さまざまな日常シーンに快適さをと届けるため、アスリートを支えたテクノロジーを取り入れ、進化させてきた」(アシックスHPより)ウォーキングシューズの先駆けである。

http://www.asics.co.jp/walking
http://www.asics.co.jp/walking/store

「歩人館」店頭

日頃、お世話になっている京都 寺町の『歩人館』。この日もシニアの女性二人が椅子に座って熱心に店員と相談していた。

現在は「ライフスタイルウォーキング」という、よくわからないジャンル(おしゃれなウォーキングシューズという意味か?)に『PEDALAメンズ』『PEDALAウィメンズ』として展開されている。私も以前より(シニア年代に達する前から)愛用している。販売チャネルの『歩人館』やデパートの靴売り場にもよく行くので、人が履いていてもだいたい区別がつく。40代から60代、70代くらいの人もいるだろうか。シニアにも支持(私の経験から)されている理由は

1)軽い(かつては驚きだった)
2)歩きやすい(アシックスの機能性研究が生かされている)
3)履きやすい、脱ぎやすい
4)幅広、甲高でもラク(幅は4Eのタイプも)
5)オーソドックスなデザイン(ビジネスシーンでも履ける)
6)そこそこの値段(決して安くはないが)
7)アシックス(オニツカタイガー)というブランドへの信頼感

更に直営店の『歩人館』では「足の特徴を正確に知るために一般的な靴選びの基準になっている『長さ』だけでなく、『足の周囲』『土踏まずの高さ』『かかとの傾き』『親指の角度』などを3次元足型計測機できめ細かく計測し、靴選びの基本データを」(アシックスHPより)作成してくれる。このデータを元にセミオーダーの中敷きを作ってもらうことも可能だ。

足の計測をアピールするポスターが店頭に貼られている

足の計測をアピールするポスターが店頭に貼られている

このことで、衰えた足元に悩んでいたシニアが救われるケースも多いと思われる。意に染まないシニアシューズを履くより、少し値が張ってもこうしたコンサルティングを受けながらおしゃれな靴を選ぶシニアは増えるだろう。
こうしたコンサルティング・セールスこそがこれからシニアに対する有効なアプローチの一つだ。そうすれば価格競争に巻き込まれることも少ないだろうし、これからますます数が増えるアクティブシニアを取り込むことができるに違いない。

店舗名はこれから順次『アシックスウォーキング』という店名に変わってゆくようだがシニアには『歩人館』のほうが良いと思う。『アシックスウォーキング』というとスポーツとしてのウォーキングが想起され、シニアが店に入りにくくなる可能性がないだろうか。

渋谷 道玄坂の歩人館は「アシックスウォーキング」になっていた。場所柄、シニア対象ではないのだろうが、英文のみの店名表示など、シニアは入りづらい

渋谷道玄坂の歩人館は「アシックスウォーキング」になっていた。場所柄、シニア対象ではないのだろうが、英文のみの店名表示など、シニアは入りづらい

シニア向けには「ヘルスサポートシューズ」というジャンルで『ライフウォーカー』というブランドで展開している。ただ、このラインはどう見ても介護シューズである。いくら機能性に優れていても、後期高齢者の、それもかなり歩くことが不自由にならないと買ってもらえないのではないかと思う。値段はかなり抑えられている。多分、靴の専業メーカーのシニアシューズに対抗するためのものだろう。

http://www.asics.co.jp/walking/lifewalker

子どもたち、若者たちが確実に減ってゆく中で、おしゃれで履きやすい靴があれば、シニアもTPOに応じて履き分けるということになり、需要は拡大するはず。機能性とデザインはトレードオフではない。まさに『PEDALA』がそれを実証したように(改善の余地はあるにしても)。

人が一人で生きていく事ができなくなる一つの目安は歩行速度が秒速1メートル低下になることだといわれている。秒速1メートルを下回るとさまざまな活動に支障が出てくる。交差点の信号時間の目安も人が秒速1メートルで歩くことを基準考えられていると聞いた。人がずっと秒速1メートル以上で誇らしげに歩くためにシューズメーカは頑張ってほしい。

シニアに向けての製品やサービスを開発するときに「シニアのため」とは考えず、それを利用する人が使いやすいものと考えれば、「シニアが履きたくないシニアシューズ」のようなことにはならない。どの世代にとっても魅力的なものをより使いやすくすることがシニアのニーズを捉える一番の近道なのでないか。

倉内直也