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増加するワーキング・シニアを4類型で考える

労働力人口に占める高齢者の割合は10年前の1.5倍に

平成28(2016)年の労働力人口は、6,673万人。労働力人口のうち65~69歳の者は450万人、70歳以上の者は336万人であり、労働力人口総数に占める65歳以上の者の割合は11.8%。年々上昇し続けている。

平成29年度版「高齢社会白書」

平成28(2016)年の労働力人口比率(同年齢人口に占める労働力人口の割合)をみると、65~69歳では44.0%。平成16(2004)年(34.4%)から約10%増加している。70歳以上は13.8%であり、おおむね14%で推移している。昭和期より減少しているのは高齢の第一次産業従事者が減ったことが原因だと考えられる。

平成29年度版「高齢社会白書」

シニア男性の就業者の割合は55~59歳で90.3%、60~ 64歳で77.1%、65~69歳で53.0%。60歳を過ぎても多くの人が就業している。シニア女性の就業者の割合は55~59歳で69.0%、60~64歳で50.8%、65 ~69歳で33.3%。

70歳を越えても働きたいシニアは約7割

雇用環境も変わってきている。年金支給開始年齢の引き上げにともない、企業に雇用延長が義務化された結果、一律定年制を定めている企業のうち、勤務延長制度もしくは再雇用制度または両方の制度がある企業割合は 94.1%となっている。

65歳以上になると就労率はぐっと下がる。最大の原因は雇用延長制度の中で最高雇用年齢を65歳としている企業が80.6%と多いためだろう(厚労省 平成28年就労条件総合調査)。この点も定年を定めない、雇用最高年齢を70歳に引き上げる企業が増えてゆくと考えられるので、65歳以上の就業率がアップしてゆくことは間違いない。

一方、働く意欲という点でも70歳以上まで働きたいというシニアは「働けるうちはいつまでも」も含めて7割近い(67.8%)。

平成29年度版「高齢社会白書」

働くためのシニアの体力もアップしている。シニアの体力アップについては、文科省が毎年行っている「体力・運動調査」で、この15年間で5歳以上の若返りが確認されている。

文科省「平成28年度体力・運動調査」

これは我が国だけの傾向ではない。世界的な経営コンサルティング会社である、A.T.カーニー(A.T. Kearney)のレポート「高齢化する消費者のニーズと影響」(2013年)を見てみよう。「オーストラリア、ラトビア、オランダ、ニュージーランド、ポルトガル、米国では、1980年~1990年には65歳以上の男性の労働参加率の低下が続いたが、その後1990年~ 2009年で3%から11%に増加している。米国で最も急速に労働者数が増加している年齢層は、65~74歳である」と報告されている。その背景には我が国と同じように
1)少子化による生産人口の減少
2)健康寿命の延び
3)定年延長、年金支給開始年齢の引き上げ
などがあるとしている。

ワーキング・シニアを4類型で考えてみよう

ますます増えるワーキング・シニアは就労という視点で見ると、大きなマーケットとして捉える事ができる。シニアが「働く」ということでさまざまニーズが生まれてくる。収入が増えることもインパクトを持つ。このワーキング・シニアのマーケティングを考えるポイントは「なぜ働くのか」ということにあると考えている。そのため、当室ではワーキング・シニアを大きく4タイプに分類した。

縦軸に「収入、資産」をとり、横軸を「能動的・受動的」とした2軸4象限で考察してみよう。以下がそのグラフである。

ワーキングシニア4つの類型

1)いやいやワーキン・グシニア
もう引退したいが、現役時代の貯蓄や年金支給額が少ない、さまざまな理由で生活費を得るために働かざる得ない

2)そこそこワーキング・シニア
年金と貯蓄の取崩しでなんとか暮らしは立つが、自由に使えるお金が欲しい

3)ゆうゆうワーキング・シニア
資産、年金とも十分あり、経済的理由ではなく社会的なつながりを大切にしたい

4)ばりばりワーキング・シニア
経営者・役員、医師・弁護士、職人・熟練工、農業・漁業など今も仕事の現役

ではそれぞれの事情を少し詳しく見てみよう

1)いやいやワーキング・シニア
今の仕事に不満がある、もしくはITなど新しい環境についていけない、身体がキツい、人間関系のストレスから開放されたいといった理由から、早く仕事を辞めてゆっくりしたいが、働いて収入を得ないと暮らしが成り立たない。更に親の介護費用や子どもの教育費がまだかかるなどの年金だけでは支出を賄えない…など経済的に厳しい状況にあるシニア。

実はこの「いやいやワーキング・シニア」が増えてゆくおそれがある。その理由としては

1)就労期間が延び、若いときに身につけた技術やノウハウが陳腐化してしまう。40代、50代でのキャリア設計に問題のあるケースが多い

2)バブル崩壊後、長く続いた不況期が大量の非正規雇用者を生み出した。賃金が安く、立場の安定しない非正規雇用では、年金の積立や貯蓄が十分でなく、退職金もほとんどない。

3)晩婚化、晩産化により、末子の独立が定年後までずれ込む、まだ教育費がかかる。

昭和30年生まれと55年生まれの女性について、婚姻・出生の状況を見てみよう。昭和30年生まれの女性をみると、初婚率が「23~24歳」、出生率は第1子が「25歳」、第2子が「27~28歳」、第3子が「30歳前後」となっている。

昭和50年生まれでは、初婚率と出生率のピークが右と下に動いている。右への動きは初婚年齢の上昇(晩婚化)と出生時年齢の上昇(晩産化)を示し、下への動きは初婚率と出生率のピークの低下を示している(厚労省 平成22年度「出生に関する統計」)。

4)非婚化、離婚率が高まり、パラサイト・シングルやシングルマザーとなった子や孫の生活を支えなければならない。その数は300万人を超える(35~44歳の「親と同居の壮年未婚者」)

5)平均寿命が延び、親の介護が定年前後まで続く。かつての親は早く死んだ。親の平均寿命が70歳、25歳で生まれた子どもなら、現役世代の45歳で親を見送ることになる。それが親の平均寿命が90歳になると定年を過ぎた65歳で見送ることになる。役職定年、年金生活と収入が減る時期に親の介護と向き合わなければならない。

上記のような事情で早く仕事を辞めてゆっくりしたいが、働いて収入を得ないと暮らしが成り立たないために働き続けるシニアが「いやいやワーキング・シニア」である。

2)そこそこワーキング・シニア
いわゆるポスト団塊の「逃げ切り世代」と呼ばれるシニアが中心となる。まだ終身雇用、年功序列が残っていた70年代後半に正規雇用で就職。バブル崩壊後は前の世代に比べ、十分な資産形成ができなかったが、年金も退職金もある程度は確保できた。
内閣府が平成28年に行った「高齢者の経済・生活環境に関する調査」では「家計にあまりゆとりはないが、それほど心配なく暮らしている」(49.6%)と全体の半数を占める。

内閣府「平成28年高齢者の経済・生活環境に関する調査」

贅沢をしなければ、なんとか年金でやりくり暮らせるが、病気や介護の不安を考えるとあまり多くない資産を取り崩したくない、可能ならば少しでも積み増したいと考えている。

加えて旅行や孫消費も楽しみたい、という気持ちから、フルタイムでバリバリ働くのはゴメンだが気楽なパートやアルバイトで月に4~5万の収入を得られたら、というのがマジョリティといえる「そこそこワーキング・シニア」の姿だろう。仕事の種類(やりがい)よりも、
・仕事のストレスが少ない(責任が軽い)
・勤務時間が短く、融通が聞く
・通勤しやすい近隣の勤務先
を選ぶ傾向がある。
仕事の合間に比較的気軽に参加できるボランティア活動なども行っている。

3)ゆうゆうワーキング・シニア
10年ほど前に「団塊の世代が60歳定年を迎えたらシニア市場が爆発、100兆円」の数字が踊っていた頃のシニアのイメージに近いのがこの「ゆうゆうワーキングシニア」。大企業や公務員として定年までの恵まれた賃金、退職金を得て、60歳から十分な年金や企業年金を受け取っている『人生の楽園』組である。

ちなみに大企業(1000人以上)と小企業(99~30人)の退職金制度の違いを見てみよう。まず、退職給付制度のありなし。大企業では93.6%に対して小企業では72.0%。退職一時金に加え、企業年金制度は大企業の48.1%で実施されているのに対して小企業ではわずか17.3%に過ぎない(厚労省「平成25年就労条件総合調査」)。

次に退職金の金額。大企業中心の中央労働委員会の調査では定年時約2,620万円(2011年)、中小企業を主な対象としている東京都の調査では約1,224万円(2012年)と倍以上の差がある(りそな企業年金研究所「企業年金ノート」2013.1より)。

大企業の社員や公務員として、現役中は忙しくてできなかったことを、新しい仕事や活動を通じて実現したいと考えている。地方へ移住して農業を始めたり、カフェやペンションを開くなど、趣味を活かす、これまでの夢を実現する仕事を選ぶ、また有償あるいは無償ボランティアとして地域や社会に貢献できる仕事に就くことが多い。収入より、やりがいや趣味性を優先するのがこの「ゆうゆうワーキング・シニア」の特徴である。

4)ばりばりワーキング・シニア
今も現役としてバリバリ働いているシニア。最大の特徴は仕事に対しての姿勢が能動的であること。自らの年齢にとらわれることなく、自分の仕事に誇りを持っている。職種としては自営業を含む、経営者や役員、医師・弁護士などの士業など。

専門性が高く、収入、社会的地位が高い。高学歴であり、資格を持ち若いときから比較的高収入を得ていたシニアが多い。社会的関心が強く、自分は支えられるより、支える側でありたいと考えている。多忙な中でそれまでに積んできたキャリアや人脈を活かし、自らの仕事の他にNPO法人の監査役や、各種の相談員、指導者をボランティア的に行っている。

多彩な趣味を持ち、高級デジタルカメラ、8Kテレビなど最新の技術にも関心がある。品質にこだわり、その分高額な消費を行う。年齢の割にITにも強い。仕事を続けるため、スポーツクラブでの運動や先進予防医療などで健康維持を図っている。

以上見てきたように今後、新しいシニアの括りとしてのワーキング・シニアがこれから地に足をつけたマーケティング対象として大きな意味を持ってくる。

シニアマーケティング研究室 倉内直也