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妥当か意外か。勤労高齢者の消費支出の特徴とは?(上)

「就労」がいかに消費の活性化につながるか……。当サイト内でも、これまでいくつかのアーティクルの中で言及してきた。では、同じ世帯主が高齢者の世帯で「総世帯」と「勤労者世帯」の間に、消費支出額の差はあるのだろうか?

本アーティクルでは、世帯主年齢層別に勤労者世帯と総世帯の支出額のグラフ化を試みた。データ元は「家計消費状況調査」(総務省統計局)。この調査は、家計調査では安定しづらい、高額商品やサービス、ICT関連支出に限定した、消費状況を明らかにしている。言わば、必ずしも必需品ではないコト消費を主な対象としているとも言える。それだけに、就労による所得を有する世帯が、全体平均と比べ、どのように際立っているかを探る有効な指標になり得る。

同調査における支出項目は多数あるが、本アーティクルでは、基本指標となる総支出、及び食費支出、住居関連支出をまず押えてみる。その上で、移動、通信、余暇、医療などサービス支出の違いを浮き彫りにしてみたい。
図中、勤労者世帯とは、世帯主が会社、官公庁、学校、工場、商店などに勤めている世帯。総世帯とは、勤労者世帯を含めた、二人以上ないしは単身世帯の調査対象全世帯を指す。

図1.は、1ヵ月1世帯当たりの、年齢層別総世帯と勤労者世帯の支出総額を比較したもの。
世帯主年齢44歳以下の比較的若年層では、総世帯と勤労者世帯の支出額に差はないが、45歳以上に差し掛かると少しずつ差が生まれてくる。その差は年齢が上がるほど、徐々に開いてゆく。

実数では、45~54歳では、勤労者世帯が総世帯を6,581円上回っている。それが、55~64歳では、10,711円、65歳以上になると17,270円と格差がついてくるのだ。
17,270円と言っても、軽視できる数字ではない。65歳以上の世帯員を擁する一般世帯は、全国で約2,171万世帯(2015年国勢調査)。全国にすると、約3,750億円の市場になる。

では食費はどうだろうか?
「世帯主年齢44歳以下の比較的若年層では、総世帯と勤労者世帯の支出額に差はないが、45歳以上に差し掛かると少しずつ差ができてくる。」という傾向には変わりはないが、45~54歳でピークを迎える総支出金額と比べ、食費のピークは、55~64歳とひと世代後ずれしていることがわかる。

勤労者世帯と総世帯で異なる大きなポイントは、55~64を起点にした65歳以上の減り幅の違いにある。
勤労者世帯ベースでは二つの年齢層の差は、1,633円(減少率2.1%)に過ぎないが、総世帯ベースでは4,593円減少し、その減少率も6%にまで広がる。

同じ年齢層なのだから、食事の量の差とは考えにくい。勤労者世帯の方が、食事の質を落さないと考える方が妥当ではないだろうか?

「食」と並ぶ生活の基本「住」に関しては、全く違う波形が現れた。(図3.)
「家屋に関する設備・工事・修理費支出金額」は、年齢層に比例して上昇。勤労者世帯が総世帯をやや上回りつつ同じような傾向を示しながら、55~64歳で、支出のピーク期を迎える。

「食」と同様、両者が異なる道を歩み出すのはここから。
勤労者世帯の住宅関連の設備・工事・修理費は65歳以上になっても衰えを見せない。単価でみて40円下がっただけである。一方、全世帯ベースでは、その下げ幅は703円。大きく低下している(8%減)。

世帯主が65歳以上の勤労者世帯では、総支出額では、55~64歳よりも低下しているが、生活の基本部分の「食」や「住」に関しては、その支出をむやみに押えていないと言えよう。(中に続く)

日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男