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団塊世代の消費マインドを揺り起こすために         ―資生堂MG5を気づきとして

最近、会社の最寄り駅にあるドラッグチェーン店の棚に懐かしい資生堂「MG5」が並んでいるのを見つけた。団塊世代の男性で見覚えがない人のほうが少ない男性化粧品だろう。黒と銀の市松模様の名作パッケージはいまも古さを感じさせない。

この「MG5」、発売されたのは1963年だが、大ヒットしたのは今のパッケージデザインを採用し、「本格的男性化粧品」として再デビューした1967年からである。その後、全23アイテムにまで広がることになる(現在も13アイテム販売されている)。

当時のトップモデル団時朗とダルメシアンを使った広告シリーズを覚えている人も多いだろう

当時のトップモデル団時朗とダルメシアンを使った広告シリーズを覚えている人も多いだろう

なつかしいロングセラー商品は意外と多い。「えっ今もあるの」とその懐かしい姿にお目にかかって驚くことがある。※1 使い続けている人たちと確かなニーズがあるからそれらの商品は生き延びてきた。

※1 ロングセラー商品のエピソードを集めた『まだある。』という本が面白い。「MG5」も取り上げられている。著者:初見 健一 大空出版 文庫サイズ 788円

そんな中でも「MG5」のスゴイ点は駅ナカのドラッグチェーン店、決して広くない店舗に定番商品として置かれていることにある。売れなければ一月、いや一週間で売り場から撤去されてしまう厳しい競争のなかで、プロパーにいるということは決して簡単なことではない。「MG5」が「ノスタルジー」ではなく「現役」の商品である何よりの証拠だ。

棚には「SHISEDO 100 SELECTION」のPOP。「SHISEDO 100 SELECTION」はネットで検索しても出てこない。資生堂本社のプロモーションではなさそうだ。手書きでもないので販売会社かチェーン本部で作ったものなのだろう。そのチェーンの資生堂商品のベスト100に入っていたらたいしたものである。テレビCMのバックアップも大々的なセールスプロモーションの後押しもなく、ただ黙々と売れ続けている「親孝行」な商品である。

資生堂の直販サイト「ワタシプラス」でも売られているが、あまりに深い階層にあり、発見はまず不可能。日経の電子版などのバナー広告からダイレクトに飛んで来てもらうしかなさそうだ。団塊世代へもう少し上手くアピールする方法はありそうだが…。
http://www.shiseido.co.jp/sw/products/SWFG070310.seam?brnd_cd=3H&online_shohin_ctlg_kbn=1

ここからが本題なのだが、「MG5」が発売当初(1963年)にはあまり売れず、4年後にリニューアルされてヒットし、今まで売れ続けている理由が気になった。リニューアルされたパッケージデザインの素晴らしさや広告宣伝手法の斬新さもあるに違いない。しかしシニアマーケティングを考える上で、私が注目したのは発売された年(1963年)とリニューアルされた年(1967年)の間に何らかの変化があったのではないかということだ。

私は「MG5」が発売された1963年と大ヒットした1967年までの4年間に、団塊世代にとって時代=「世の雰囲気」が大きく変わっていたと考えている。この時、団塊の世代は17~20歳くらい。最も多感な時期を過ごしている。
この時の「世の雰囲気」を知っていれば、団塊世代に対するマーケティングを考える時に相当強力な武器となる。

年齢を重ねると「今朝食べたもの」を忘れてしまうが、「青春の一コマ」は延々と憶えているものだ。では、団塊の世代が青春のまっただ中にいたこの2つの年の出来事やトレンドを見てみよう(ネットで検索すると、他にもいろんな発見がある。お試しを)。

◆1963年
・テレビアニメ第1号「鉄腕アトム」放映開始
・名神高速道路が開通(日本初)
・黒四ダムが完成
・NHK大河ドラマ第1作「花の生涯」
・舟木一夫が「高校三年生」で歌手デビュー
・NHK紅白歌合戦で最高視聴率81.4%を記録
・大鵬が史上初の6場所連続優勝を達成

◆1967年
・カラーテレビ本放送開始
・ツイッギー来日。日本にミニスカートブーム
・日本初の自動改札機
・住友クレジットサービス設立
・グループサウンズブーム
・「帰って来たヨッパライ」がヒット
・流行語に「核家族」「アングラ」登場

この他、さまざまことが出来事、トレンドとしてあるが、この2年を比べてみると1963年はようやく「戦後」と別れを告げ新しい芽吹きが起こり始めた年といえる。団塊の前の世代(戦中派)が東京オリンピックを目前に、日本の再興を実感していた「上向き」の時代だった。

しかし東京オリンピックを挟んで1967年には63年とは違い、音楽やファッションなど新しいムーブメントを常に取り込むことになる団塊の世代が次第にイニシアチブを取り始め、現在に続くトレンドが出始めている。新しさやかっこよさに憧れる「世の雰囲気」が「MG5」という男性化粧品のヒットを産んだのに違いない。

団塊の世代にアプローチしようとするならば、とくに若いマーケタはその世代を十分調査し、その時の「世の雰囲気」を感じ取る必要がある。この場合、ネットを使った定量調査では「雰囲気」をつかみにくい。やはりグループインタビュ―などで実際に顔をあわせ、その世代の生の声に耳を傾け、表情などから感じ取るしかない。その上でしっかり、商品やサービスに関わるペルソナを描き出してから企画を考える必要があるだろう。

話を「MG5」に戻すと、「MG5」は男性化粧品だから当然印象的な「シリーズの香り、匂い」を持っている。「香り、匂い」がそれにまつわる記憶を呼び覚ますことは「プルースト効果」としてよく知られている。

団塊の世代の男性は「MG5」の香りを嗅ぐ、と50年近くの時間を一気に飛び越えて、彼女とデートした時の「ドキドキ」や「ワクワク」が一気によみがえるであろう。そして、この「ワクワク」や「ドキドキ」といった高揚感=その「世の雰囲気」が、人生でのイベントが減ってゆくこれからの団塊世代の消費マインドを揺り起こす大切な契機の一つなのである。

余談だが、「MG5」を愛用していた世代がその後、学生運動という大きなうねりのなかに入ってゆく。そのテーマの一つがベトナム反戦運動だった。そしてこの原稿を書くために買った「MG5」を手にして表示を見ると「MADE IN VIETNAM」の文字。団塊の世代にとっても、そして「MG5」にとっても半世紀は決して短くはなかったのだ。

倉内直也