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確実にやってくるもの 『脳力は衰える』

「シニアマーケット」「団塊シニア」…これはマーケターの希望、あるいは必要から生まれた「青い鳥」だったのかもしれない。
さまざまなシニア向けの取り組みが失敗し、いまでは「シニアを一括りにしてはいけない」がマーケターの常識になった。
ただ、どんなシニアも逃れられないのは「加齢」である。なかでも『脳力』の衰えを実感しているシニアは多い。

ある年齢から急に「記憶」の瞬発力が落ちてくる。よく言われる「もの忘れ」=脳科学での「TOT(Tip of the tongue)現象」とはちょっと違う。これは、老眼の辛さや苛立ちと同じで、我が身がそうならないと、なかなか実感できない(知識としてわかっていても)。

例えば電話番号。電話番号を覚える、と言うことではない。メモを見ながら、携帯電話の番号を打つとき、以前なら、2度、メモを見れば打てたものが、何度も見ないと打てなくなる。一度に保持できる情報の量が減っているのである。

日常的な出来事や学習して覚えた情報は、一旦、大脳辺縁系の「海馬」の中で整理整頓されてから大脳皮質に送られ、確かな記憶となると言われている。この海馬の働きが弱くなってくると記憶(情報)の定着ができにくくなる。これも、急にはやってこない(急にやってきたらすぐ病院へ行くべきだ)。気が付かないうちにそうなっている。

「段取り」も同じ。これは脳の「前頭連合野」というところがつかさどる。さまざまな記憶から必要な要素を引き出し、一次的に保存する。

海馬が機能しなくなると、人は新しいことが覚えられなくなる

海馬が機能しなくなると、人は新しいことが覚えられなくなる(クリックで拡大)

「ワーキングメモリー」と呼ばれる、この機能が低下すると、自分の意志で行動を計画することができにくくなる。だから、どうしても従来の「手順」に頼ってしまう。「手順」から離れようとしないし、離されると、次にどうすればよいかわからなくなり、途方にくれることになる。

こうした『脳力』の衰えは、人によって個人差はあるにしても、必ずやってくる。マーケティングの世界でも、不確かな世代論の前にこうした「衰え」に対応することで成果を上げることができるはずだ。

マーケティングと脳科学の関わりについては「ニューロマーケティング」と呼ばれ、いろいろな本が出ている。まだ諸説があり、これからさまざまな検討が必要であろう。しかし、マーケティングやコミュニケーションについて言えば、以下のことははっきりしている(多くのシニアが体験し、困っているからだ)。

「小さい」文字は読めない

文字でしか伝わない情報も多いが、文字が小さいと、まず、読む気がおこらない。たとえ目を細めて、読めたとしても、脳に情報がインプットされない。「近眼」と「老眼」の違いは、老眼は見えないことで脳が混乱し、情報の受け入れを拒絶することだ。「目」が疲れるのではなく、「脳」が疲れる。

「長い」文章は理解されない

前に読んだ文節が記憶できないからだ。長い文章に出会ったら、何度も何度も少しずつ文節を読んで理解しなければならない。
読めても意味がちゃんと取れない。誤解される恐れがある。ふつうはその前に読むことを投げ出してしまうだろう。
長い数字の列も同じ。「シリアルナンバー」など、10桁を超える英数文字列は「悪魔の呪文」である。どこがユーザーフレンドリーだ。自分たち都合で決めている。

「手順」を外さない

縦書きに慣れた世代なら縦書きにする。縦書きが難しいなら、できるだけ、一行の文字数を減らす。そうすることで目=脳が「ひとつかみ」(英語ではchunk=チャンクというらしい)する量が少なくて済む。
新聞は縦書き、しかも一行11~14字くらいで書かれている(ちなみに日経は11文字)。日本語はそうすると、すらすら読めて頭に入りやすい。小さい文字を左右いっぱいに書くのは「読むな」と言っているのと同じである。

「雑音」を増やさない

脳力が衰えてくると、いろいろな情報や約束事を脳の中で統合して、自ら進路を探して行動することが難しくなる。
「これくらいわかるだろう」「ジョーシキ」は非常識である。大切なところ、行動を求めるところは、要素をクラッタ―化せず、ゆとり(余白など)を持もたせ、目立つように。

駅のトイレの案内は、デザイナーではなく、何度も、何度も同じ事を聞かれる駅員が作るべきだ。そうすれば、決しておしゃれでも、ハイセンスでもないが「誰が見てもわかりやすい」案内ができるからだ。

センスの良し悪しではなく「わかる」「分からないの」が問題。

センスの良し悪しではなく「わかる」「分からない」が問題。

次回へ続く
※今回より、津川の後任、倉内が書き継ぐことになりました。よろしくお願いいたします。
倉内直也