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リハビリテーション、現実と理想のギャップ(下)

(承前)
「介護保険のリハビリテーションにおいては、心身機能のみならず「活動」「参加」に係る働きかけが、医療リハビリテーション以上に重要である。」(前述報告書)
とは言え、限られたリソースの中で、柔軟に対応することが難しいのも現実だろう。

両者の認識にズレがあることは、以下の2つのデータからも明らかだ。

図8.はリハビリテーションの効果に対する利用者の認識、図9.は同じく専門家の認識である。
選択肢の言葉が100%一致しているわけではないので、必ずしも厳密な比較とは言えないが、両者の認識にかなりの乖離があることは明らかだ。

たとえば、利用者の半数以上が「身体機能」がよくなることを期待しているのに対し、専門家サイドでは、「心身機能が向上する」効果を認めている人は、2割強に過ぎない。大半の専門家は、「心身機能を維持する」効果を期待している。

認識の乖離がさらに顕著なのは、「日常生活動作」。身体機能と同様に利用者側では、過半数の人が「よくなる」ことを期待しているのに反し、専門家サイドでは、「ADL・IADL(※)の向上」を期待する人は、15%強に留まっている。

※ADL:日常生活動作 IADL:手段的日常生活動作(買い物や洗濯などより複雑で高次な動作をさす)

さらに「社会的活動」「社会適応能力」と言った、より高次の分野に関しては、「向上する」ことを期待する専門家は、わずか8.6%と低い数字になっている。
「社会的活動をよくする」と期待する利用者は、30%を超えている現実を踏まえるとここでの乖離も非常に大きなものがあると言わざるを得ない。

総じて、利用者の期待水準を下回っており、「せっかくがんばってリハビリしたのに、がっかり」という負のイメージを招来する結果となっている。

もちろん、リハビリテーションは居宅系サービスのみで完結するものではない。「地域包括ケアシステム」の理念に則り、地域リソースをリレーでつなぐ、コミュニケーションが必要になる。

実はこの面でも、解決すべき課題がある。

図10.は「地域の体操教室や、趣味活動の集まりについて説明を受けたかどうか」を通所リハの利用者に尋ねたもの。
このデータによると、「説明を受けたことがある」と答えた人の6割近くが「利用したいと思った」と回答を寄せている。

逆に、「説明を受けたことがない」と答えた人は55%に上る多数派を占める。その中には、知らせられないままで眠っている大きな潜在ニーズが存在することは明らかだ。

図11.は「身体機能や日常生活を送る上での動作の今後の見通しの説明の有無」を尋ねたもの。
このデータも同様に、「説明を受けなかった」人の過半数が、実は説明を希望していた。
コミュニケーションがいかに大切かの証左でもある。

前回のコラムと同様、「高齢者の地域における新たなリハビリテーションの在り方検討会報告書(平成27年3月/厚生労働省)」からの引用をもって結語としたい。

‘‘より楽しく生きたい、より豊かに生きたい、より高い生活機能を実現したいといった高齢者の気概や意欲を引き出すことが重要である”(引用終わり)

そのためには、さまざまな工夫やマーケティング的な見地からの取組みも、今後ますます必要になってくるだろう。

日本SPセンター シニアマーケティング研究室 中田典男