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ディフェンシブ・シニアとは?White paper【09】シニアに向けて10の切り口(ディフェンシブ・シニア編)を公開

シニアに向けての製品やサービスを考えるヒントに

「シニアに売れる商品を考えてほしい」「シニアに喜ばれるサービスは何か」そんな課題を与えられたとき若いマーケターは「シニアに、といわれても…」と戸惑うことが多いかもしれない。
これからシニアマーケティングを考えてみよう、という方のヒントにしていただきたいのがこの「シニアに向けて10の切り口」。今回は「ディフェンシブ・シニア編」。

紹介する切り口はこれまでのシニアに対する考察やグループインタビューなどで聞いたシニアの肉声も含め、弊室が独自に選びだしたものである。
とはいえシニアを一括りにして考えては失敗する。そこで弊室ではシニアを次の4つに分けて考えることを提案している。

1)アクティブ・シニア
2)ディフェンシブ・シニア
3)ギャップ・シニア
4)ケア・シニア

※詳しくは弊室のサイトからダウンロードできるホワイトペーパー【06】
「シニア市場の細分化及びニーズ発見のための戦略的フレームワーク」を参照いただきたい。
【ダウンロードページ】 https://www.nspc.jp/senior/archives/3305/

シニアに向けて10の切り口も上記の4つに分けて準備している。
このホワイトペーパーではディフェンシブ・シニアを取り上げ、それぞれの切り口を説明。その後に切り口を利用したシニアに向けての新しい製品やサービスを考えるノウハウの一端もご紹介したい。

アクティブ・シニアへの切り口はすでに以下に公開している。
https://www.nspc.jp/senior/archives/4191/

【アクティブ・シニア編 ホワイトペーパー ダウンロードページ】
https://www.nspc.jp/senior/archives/4186/

ディフェンシブ・シニアとは

(1)健康で自由に活動できる
(2)扶養家族がいる、もしくは扶養義務が負担となっている
(3) 無職、収入は年金がメイン、可処分所得は多くない
(4)時間の使い方を自分で裁量できる

といったシニアを想定している

ディフェンシブ・シニアとは非就労で比較的収入は少ないながら健常に暮らしている層を想定。マーケティング対象として尖った特徴のないグループではあるが、4つの中で人口規模は最も大きい(ただし、将来的にはシニアの就労率が上がるため、比率は少なくなると想定される)。

メインとなる需要は、不満・不安を解消する「モノ」消費。 大きな需要を顕在化できるチャンスが眠っている層でもある。この層に向けてのアプローチのポイントは「選ばれる」こと。華々しい創造的需要ではなく、必需品消費の中で、共感をもってもらえれば、優良なリピート客になる。

ディフェンシブ・シニアを想定した10の切り口は以下の通り。重要度の順に見ていこう。

1 「わかさ」   健やかさへの願い
2 「けんこう」  心もからだも健やかに
3 「きずな」   孫、夫婦+ペット
4 「ともだち」  大切なつながり
5 「じぶん」   喪失を乗り越える自信
6 「そなえ」   病気、介護
7 「すまい」   住み続ける財産
8 「じょうほう」 人との繋がり、ネットワーク
9 「まなび」   できなかったこと
10 「おもいで」  脳の活性化

「シニアに向けて10の切り口」ディフェンシブ・シニア編

1 わかさ   健やかさへの願い

「わかさ」はディフェンシブ・シニアにとっても最大の関心事である。ではディフェンシブ・シニアにとっての若さとはなんだろう。それは次に述べる健康と強く結びついている。年金や貯蓄の取崩しが家計の中心であるディフェンシブ・シニアにとって、病気になるということが老後の暮らしでの最大のリスクとなる。

とくに独り暮らしの高齢者の不安は、「健康や病気のこと(58.9%)」とする人が最も多く、次いで「寝たきりや身体が不自由になり介護が必要となる状態になること(42.6%)」となっており、そのことが「生活のための収入のこと(18.2%)」に直結する(平成27年版高齢社会白書)

がんを始めとしたシリアスな病気に対する治療には想定外の費用がかかる。認知症を始め、介護にかかる費用もある。介護保険利用の自己負担割合も上がることがあっても下がることは考えにくい。ディフェンシブ・シニアにとって「わかさ」=「健やかさへの願い」に他ならない。

2 けんこう   心もからだも健やかに

つつましく暮らすディフェンシブ・シニアにとって健康は先に述べたようにもっとも大切なものである。健康を失うことは家計、生活の基盤を失うことにつながる。この層は健康=病気の予防(ディフェンシブ)の意識が強いと考えられる。

とくに食生活についてシニアは注意を払っている。健康のために食生活に「気をつけている」と回答したシニアは65歳以上の層で8割を超えている(平成26年度厚生労働白書)。
ディフェンシブ・シニアは毎日の規則正しい生活、食生活、そして適度な運動を心がけている。

ディフェンシブ・シニアにとっても健康は肉体だけの問題ではない。内閣府の調査でも「行政が力を入れて欲しい健康管理」についてシニア(55歳以上)は認知症(36.0%)をトップにあげている(平成24年度 高齢者の健康に関する意識調査)。認知症は本人だけではなく家族を始め、周りにも影響が大きい。高額な費用を払って認知症に対応できる施設に入る(もしくは入所させる)ことが難しいディフェンシブ・シニアにとっては認知症への不安は大きい。

3 きずな   孫、夫婦+ペット

孫はディフェンシブ・シニアにとっても特別な存在である。この1年間、孫にしてあげたことは、「お金をあげた」72.5%、「外食に行った」53.1%、「遊んであげた」44.7%、「おもちゃ・ゲームを買ってあげた」42.2%、「本を買ってあげた」37.5%。など(2015年)。そうした孫消費は1年間で平均122,904円(2016年)に上る(ソニー生命保険「シニアの生活意識調査」2015、2016年)。

まだ身体が自由に動くディフェンシブ・シニアにとってペットは大切な家族であり、友人である。「遠くの家族より身近なペット」といえる。60~70歳代で犬を飼っているシニア世帯は26.3%、猫は17.9%。犬猫を合わせると4割以上。両方を飼っている世帯があるにしても、ペットの存在は大きい(平成27年 全国犬猫飼育実態調査 一般社団法人ペットフード協会)。

ペットを飼う効用について、シニアは情緒が安定するようになった 45.0%、寂しがることが少なくなった 44.4%、ストレスを抱えないようになった 37.8%と回答している(同上)。

4 ともだち   大切なつながり

シニアにとって友だちは2つの点で大切である。一つ目は友だちと語り合うことで脳が活性化する。とくに青春時代をともに過ごした仲間との交流は大切である。人は10代後半から30代前半までの青春時代の記憶を突出して多く思い出す(この現象は「レミニッセンス・バンプ」と呼ばれている)。深く脳に刻まれている、過去の楽しい記憶を繰り返し呼び覚ますことが脳の活性化に役立つだろう。

もう一つは社会と橋渡しをしてくれる友だちの存在だ。シニアにとって仕事をリタイアした後もいかに社会と繋がっているかが大切である。その時の地域のコミュニティであれ、ボランティア活動であれ、協働してくれる友だちがいなければ何もできない。

気になるのは日本の高齢者の4人に1人は友人がいないこと。友人は「同性、異性いずれもいない」の割合は、日本(25.9%)は、欧米3か国(アメリカ11.9%、ドイツ 17.1%、スウェーデン 8.9%)に比べて高くなっている(平成27年度第8回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果)。うちに閉じこもりがちなディフェンシブ・シニアこそ友人とのつながりが求められる。

5 じぶん   喪失を乗り越える自信

老年期には、いわゆる四つの喪失があるといわれている。失うものを大きく分けると,「心身の健康」「経済的基盤」「社会的つながり」「生きる目的」(井上勝也編『老年心理学』)。とくに、仕事をリタイアしたディフェンシブ・シニアは「経済的基盤」「社会的つながり」が弱くなり、些細なことで自信を喪失したり、過去の失敗にこだわったりしがちである。

ハッピーなシニアライフを送るためには、自分をしっかり見つめて自信をもって生きてゆくことが大切。時間が比較的自由なディフェンシブ・シニアにとって、ボランティ活動を通じて社会と関わってゆくことが必要だろう。

実際、ボランティア活動を運営するNPO側はシニアの「企画能力」、「団体全体の運営能力」、「基礎的なパソコン操作能力」、「法律、行政制度に関する知識」など、専門知識や対外折衝能力に加え、シニアが現役時代に身に着けた組織運営のノウハウ、実務能力に期待を寄せている。そのような場面で活動することで自信を取り戻すことができる。

6 そなえ   病気、介護

ディフェンシブ・シニアにとって気がかりなことは自分やパートナーの病気や加齢による身体的障害についてである。身体が自由に動くうちはこれまで通りの暮らしが可能だが、いずれ何らかの障害が出てくることは避けられない。

傷病で入院の場合、全年齢の平均入院日数31.9日に対して、65歳以上では41.7日、75歳以上では47.6日と、高齢になるほど入院日数は長くなる。(厚生労働省『患者調査』平成26年)。当然、入院費用も増える。しかも先進医療など保険適用がされない治療を受けると治療費は一気に高額になる。そのための備えも考えておかねばならない。

さらに要支援、要介護の状態になった時、どこで介護を受けるかでは「現在のまま、自宅に留まりたい」37.1%、「改築の上、自宅に留まりたい」が26.7%。「介護を受けられる施設に入居する」19.0%(平成22年度 高齢者の住宅と生活環境に関する意識調査)。身体が不自由になってからではリフォームも難しい。元気な間に備えておきたいと考えるディフェンシブ・シニアも多いだろう。

7 すまい   住み続ける財産

家にいる時間が長いディフェンシブ・シニアにとって住まいはとくに重要である。しかし高齢者のいる平成初期に建てられた住宅で「段差のない屋内」となっているのはわずか18.5%(平成25年住宅・土地統計調査)。ヒートショックを防ぐうえで重要な断熱対応も十分ではない。シニアが安全、快適に暮らすためのリフォーム需要はますます伸びると予想される。

シニアの持ち家率は高く、65才以上で82.7%(同上)。ディフェンシブ・シニアにとって住まいは住むだけではなく、資産としての意味も大きい。少し古いデータだが日本人の資産は、他の国に比べ金融資産でなく持家等の実物資産の比率が高い。米国の実物資産の割合は約3割にたいして日本は約5割を占める(「高齢者の住まいと資産活用を考える勉強会」(2004)村本孜 成城大学教授作成)

自分たちの資産は自分たちで使う、という考えのシニアが増える中、シニアの実物資産を流動化させるリバースモーゲジや高齢者の戸建て住宅を子育て世帯等へ賃貸する仕組みの普及も必要である。

8 じょうほう   人との繋がり、ネットワーク

同窓会が活性化している。ネットや情報機器の普及が進み、シニアのデジタルリテラシーも向上して、昔の級友と連絡が取りやすくなった。SNSを使いこなすシニアも増えている。

私自身も中学時代から連絡が途絶えていた友人からFacebookで友だちリクエストが来て驚いた。ネットをはじめ、ICTはシニアの孤立を防ぐ大きな力になっている。

2015年末におけるシニアのインターネット利用率を見ると、60~64歳で81.6%、65~69歳で71.4%。70歳代で53.5%と半数を超え、80歳以上でも20.2%と5人に1人はインターネットを利用している(平成28年版 情報通信白書)。好きなことに使える自由時間に恵まれたディフェンシブ・シニアはITリテラシーを獲得することでネットユーザーのボリュームゾーンとなるに違いない。

9 まなび   できなかったこと

「若いときにもっと勉強しておけばよかった」シニアの繰り言の定番の一つである。シニアになるとちょっとしたことが覚えられない、簡単なこと(若いときには)が理解できない。学生時代、かろうじて学んだことは齢をとってからでも覚えている。このことはシニア世代にならないと身に沁みて実感できないのだ。時すでに遅し?いやそんなことはない。学ぶに年齢制限はない。

シニアになって学ぶ人は多い。放送大学の教養課程で一番多いのは60代以上。大学院修士課程でも50代がトップ、2番目が60代である。地域で開かれているセミナーや講座でほとんどがシニアということも少なくない。

これからはシニアになってからの就労のために、セカンドキャリアのための学びも大切。純粋に学問として学ぶ人たちに加え、新たな仕事やボランティア活動など社会を支えるために学ぶ人も増えてくる。学びたいシニアの思いを受けとめる仕組みが求められる。

10 おもいで   脳の活性化

良き思い出はシニアの脳を活性化し、気持ちを豊かにする。過去の懐かしい思い出を語り合ったり、誰かに話したりすることで脳が刺激され、精神状態を安定させる「回想法」は認知症への心理療法とし利用されている。「昔を思い出し、人と語りあう時に前頭前野の脳血流が増加することがわかっている」(遠藤英俊 国立長寿医療研究センター 長寿医療研修センター長)。

人生のダウンサイズが避けられないディフェンシブ・シニアにとって思い出は大切なものだ。その思い出は蓄音機、カメラ、ビデオ…自分の脳だけではなく、外部に保存されて共有できるようになった。思い出を共有し、語りあうことで、さらに充実した時間をもつことができる。

思い出は編集されることでより価値を増す。思い出とおいしい食事や旅といった体験を組み合わせれば、シニアに思い出を超えた感動を呼び起こすかもしれない。

White paper【09】【ホワイトペーパーダウンロードサービス】

https://www.nspc.jp/senior/archives/4363/

10の切り口を活かした製品やサービスの発想方法

シニア向けの製品やサービスを考えるとき、シニアのことはよくわからない、どこから手をつけてよいかわからない、そんな時のアイデア出しに活用できる。
やり方は至極簡単。それぞれのキーワードと貴社のシーズ(技術や提供できるサービス)を掛け合わせることで、シニアに向けた新しい製品やサービスが浮かび上がってくる。それらすべてがその通りできるというものではないが、数多く出すことで、多くのヒントが得られる。

一つの切り口と一つのシーズであれば範囲は広くなり、出て来るアイデアも数が多くなる。切り口の数を増やせば、範囲が狭くなる分、切っ先が鋭くなる。

以下にアクティブ・シニアでの宿泊施設の例を紹介しておく。発想の結果は一例である。ぜひ、お試しいただきたい。

この「発想チャート」を使ったワークショップ式の半日セミナーも実施しているので、興味のある方はお問い合わせいただきたい。

・ギャップシニア
・ケアシニア

については引き続きご紹介してゆきたい。

シニアマーケティング研究室 倉内直也