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ギャップ・シニアとは?White paper【10】シニアに向けて10の切り口(ギャップ・シニア編)を公開

シニアに向けての製品やサービスを考えるヒントに

「シニアに売れる商品を考えてほしい」「シニアに喜ばれるサービスは何か」そんな課題を与えられたとき若いマーケターは「シニアに、といわれても…」と戸惑うことが多いかもしれない。

これからシニアマーケティングを考えてみよう、という方のヒントにしていただきたいのがこの「シニアに向けて10の切り口」。

紹介する切り口はこれまでのシニアに対する考察やグループインタビューなどで聞いたシニアの肉声も含め、当研究室が独自に選びだしたものである。

とはいえシニアを一括りにして考えては失敗する。そこで当研究室ではシニアを次の4つに分けて考えることを提案している。

1)アクティブ・シニア
2)ディフェンシブ・シニア
3)ギャップ・シニア
4)ケア・シニア

※詳しくは当研究室のサイトからダウンロードできるホワイトペーパー【06】
「シニア市場の細分化及びニーズ発見のための戦略的フレームワーク」を参照いただきたい。
【ダウンロードページ】 https://www.nspc.jp/senior/archives/3305/

「シニアに向けて10の切り口」も上記の4つに分けて準備している。
このホワイトペーパーではギャップ・シニアを取り上げ、それぞれの切り口を説明。その後に切り口を利用したシニアに向けての新しい製品やサービスを考えるノウハウの一端もご紹介したい。

アクティブ・シニア、ディフェンシブ・シニアへの切り口はすでに以下に公開している。

【アクティブ・シニア編】
https://www.nspc.jp/senior/archives/4191/
【アクティブ・シニア編 ホワイトペーパー ダウンロードページ】
https://www.nspc.jp/senior/archives/4186/

【ディフェンシブ・シニア編】
https://www.nspc.jp/senior/archives/4283/
【ディフェンシブ・シニア編 ホワイトペーパー ダウンロードページ】
https://www.nspc.jp/senior/archives/4363/

ギャップ・シニアとは

(1)人の助けを必要とするほどではないが自立した暮らしに不安を抱えている
(2)できることが減り、諦めることで生活が不活発になりやすい
(3) 行政の目が届きにくく情報弱者、制度弱者になりがち
(4) 無職、収入は年金がメイン、可処分所得は多くない

といったシニアを想定している

ギャップ・シニアは2014年に日本総研が命名し、提唱した言葉。「要介護というわけではないけれど、日常生活の中で諦めや我慢が積み重なっている」(日本総研HPより)状態で、「できること」と「やりたいこと」とのギャップがある人たちを意味している。「放っておくと、介護のお世話になる可能性の高い人たち」と言い換えてもよい。

ギャップ・シニアは要介護・要支援のシニア(ケア・シニア)に比べ、行政や福祉から把握されにくく、自ら情報を集める意欲も低いため制度弱者、情報弱者に陥りやすいという問題も抱える。

ギャップ・シニアは2020年に1045万人、シニア全体の約3割を占めると予測される(当研究室推計)。この数字は「ディフェンシブ・シニア」の1340万人につぐ大きなボリュームである。

ギャップ・シニアを想定した「10の切り口」は以下の通り。
重要度の順に見ていこう。

「シニアに向けて10の切り口」ギャップ・シニア編

1 「わかさ」 気持ちの若さ

「できること」と「やりたいこと」の間にギャップがあるシニアは「若さ」と縁のない存在なのだろうか。いや、そうではない。気持ちの「若さ」を保つことで、ギャップを乗り越え、健やかな日々を取り戻すことができる。

ギャップ・シニアは加齢による身体的な障害が原因となって、社会とのつながりを持つことが億劫になりがち。家に閉じこもってしまい、ギャップが精神的、社会的な面でも広がってしまう。しかしギャップを埋める医療やリハビリは進化を続けている。ギャップをサポートしてくれる道具や制度も充実してきた。

自分が好きなことや得意なことで地域のボランティアなどに参加し、社会に関わり続けることが必要だ。その中で生きがい、やりがいを見出し、再び自分への自信を取り戻すことが「ギャップ」を乗り越え、前向きにシニアライフを送る原動力となる。

2 「けんこう」 その大切さがわかる

健康維持のためウォーキングをしていたシニアが股関節を傷めて自由に歩くことが難しくなった。朝のウォーキングは身体を動かすと同時に、心をリフレッシュしてくれる効果もあった。結果、外に出る意欲が減り、社会との関わりも薄れてしまう。

また、ある女性シニアは軽い脳梗塞を発症し、幸い大事にはいたらなかったが、利き手に軽い麻痺が残った。そのために大好きで自慢でもあった書道の字が思うように書けなくなった。「どうして…」というストレスでふさぎ込みがちになる。

「健康は失ってみて初めてその大切さに気づく」とは頭で理解しつつも、実際にそうなった時のダメージは大きい。ギャップ・シニアはそのダメージを受け止め、克服するためのサポートを待っている。彼らをケア・シニアにすることなく、「健康」を取り戻すためのサポートを開発し、「きぼう」につなげてゆくことがわれわれの役目でもある

3 「きぼう」 健やかな日々を取り戻す

健康上の問題で、日常生活動作、外出、仕事、家事、学業、運動などにギャップを抱えるシニアは25.8%。65歳以上のシニアの4人に1人。80歳を超えると3人に1人になる(平成28年版高齢社会白書)。このギャップはさまざまな工夫やサービスを利用することで埋められることも多い。そこに大きなビジネスチャンスがある。

さまざまな理由で大好きな旅を諦めなければならなかったシニアも、ユニバーサルツーリズムのお陰で、再び旅に出かけることができるようになった。今では血液透析、腹膜透析を受けている人が国内はもちろん海外旅行に出かけることも可能になっている。透析設備を積み込んだクルーズ船もある。

リハビリも進化している。早期リハビリやボツリヌス療法など新たな方法や嚥下障害に対して行う摂食嚥下リハビリなど、新たな分野での機能回復が試みられている。こうした進化により「できない」という諦めを「できる」希望に変えて、健やかな日々を取り戻そうとチェレンジするシニアが増えている。

4 「きずな」 夫婦、親子、ペット

ギャップ・シニアにとってギャップの悩みに寄り添ってくれる存在と、そのきずなが欠かせない。しかし核家族化や少子高齢化に加え、離婚、非婚が増え、単身高齢者の割合はますます増えて、約600万世帯。高齢者世帯の25.3%、高齢者の4人に1人は独り暮らし。独り暮らし予備軍の夫婦のみ世帯は724万、全体の30.7%、単身世帯を合わせるとゆうに半数を超える(平成26年国民生活基礎調査)。きずなは失われつつある。

一番身近な存在である配偶者にも不安がある。「病気やケガで困った時に配偶者はどの程度頼りになるか」というシニアへの調査(50~79歳)で「頼りにしている」と答えたのは夫57.8%。対して妻はわずか31.8%(第一生命経済研究所2014年07月調査レポート)。同じ調査で「困ったときに身近に頼れる人がいなくなること」に不安に思うのは男女とも7割程度と多い。ギャップを抱えたシニアならなおさら、不安は大きい。

いっぽう、これまでの夫婦や家族とは違うあたらしい形のきずなも生まれている。ペットやSNSでの交流が心の支えになっているシニアも増えている。ロボットが支えになる日も遠くないだろう。「遠くの親戚より近くの他人」という教えは地域コミュニティ崩壊で死語になり、「遠くの我が子より近くのロボット」が頼れる存在になるのかもしれない。

5 「ともだち」 励ましあう

「同病相憐れむ」ということばは「同憂相救う」と対で後漢時代(西暦25 – 220年)の書物に見える。同じ病や悩み苦しみを持つ者は、互いの辛さがよくわかるのでいたわり合い、助け合うのは人の世の常である。病や悩み苦しみは千差万別、人それぞれだが、シニアのそれは結構、共通なものが多い。

「ひざが痛い」「腰が痛い」「ボケがきたかも」…肉体や脳の老化は誰にも訪れるからである。ぼやき合うことで痛みも悩みも少し軽くなる。後ろ向きの話だけではなく、情報交換でいい治療法や救済制度を知り、ギャップを乗り越えることができるかもしれない。シニアにとって「孤独」は万病の元である。

生きがい(喜びや楽しみ)を感じている割合を、近所付き合いのあるなしで比べたデータがある。「ご近所と親しく付き合っている」シニアは「付き合いがない」シニアに比べ
5倍以上生きがいを感じているという結果がでている(平成26年度「高齢者の日常生活に関する意識調査」)。ギャップを抱えたシニアがたやすくコミュニケーションを取れる手段が待たれている。

6 「じぶん」 気持ちの年齢、自信

ギャップ・シニアにとって大きな問題に「自信の喪失」がある。「歳よりも若い」といわれていたシニアが「できていたこと」が「できなくなった」とき、一気に老け込むということが多い。「できない、失敗する…」と恐怖心を覚えてしまう。自信を持って過ごしてきた人はいっそう辛い。そんなときは心身の機能も低下しやすくなり、自分を見失いやすい。

自分は健康でないと感じているシニアは、そうでない人より「 自尊感情 」が低いという研究結果がある。その理由は健康上のギャップにより、家族や社会から「お荷物 」として見られのではないか、という気持ちが「 自尊感情 」を低下させるのではないかという(「老年期の自尊感情に関する一研究」大阪市立大学生活科学部紀要・第45巻)。

自信を取り戻すために「できないこと」を受け入れ、そのギャップを人や情報、システムの力を借りて「移転」する必要がある。歩くのがつらくなったらその解決策を探す、相談する。きっと「移転」先があるはずだ。最新の杖、車椅子、シニアカー…。新しい治療法、リハビリも開発されているかもしれない。自らのギャップについて「学ぶ」ことも有意義だ。そうすることで自分に自信が湧き、気持ちの年齢も若返る。

7 「じゆう」 買い物、お出かけ、旅行…

ギャップを抱えることは「自由」を制限されることに他ならない。若いときに求めたさまざまな「自由」。「自由」は人間であることの根幹の一つなのにギャップ・シニアは買い物に行くことさえままならない。家を出ることも難しいこともある。しかしギャップは埋められる。

中でも期待されるのが「自動運転」。シニアの困り事の中で、「買い物」や「通院」の移動手段についてのことが多い。地方では「交通機関の便数」「交通事故」が外出時の不便、不安の1位、2位を占める(富山県「高齢者生活意識調査」)。さらに、昨今ではシニアの暴走や逆走の多発からシニアの免許返納が社会的課題になっている。自動運転が実用化されればギャップを抱えたシニアも自由に、しかも安心して買い物や通院できるようになる。

インターネットもさまざまなギャップを埋めてくれる。買い物に出かけるのが難しくてもネット通販で大抵のものは買える。しかも楽しみながら。古書探しなどはネットの方が見つかる確率が高い。放送大学を始め、通信教育も充実している。そうした新しい自由を手に入れるためにはデジタルの知識だけではなく、シニアの気持ちが理解できる水先案内人が欠かせない。

8 「いりょう」 病院、治療、リハビリ

ギャップ・シニアは病院やクスリと縁が切れない。当然、医療費がかかる。無職のシニア世帯の消費支出に占める医療費の割合は6.1%。全世帯平均の1.39倍。これは交際費の1.42倍についで高い。この数字は健康な世帯も含まれるのでギャップを抱えるシニア世帯は更に割合が高くなる(厚労省 平成26年度 国民医療費の概況より)。

さらにシニアへの医療給付費増大が問題になり、自己負担の割合が引き上げられようとしている。医療費の患者負担に上限を設ける「高額療養費制度」で世帯の所得限度額が引き上げられ、後期高齢者医療保険では保険料負担の「軽減特例」も見直される。

病院にも不安がある。現在、病院は急性期医療への対応が優先され、長期入院できる病院が減っている。入院が長引くと自宅や介護施設などへの退院、もしくは転院するよう求められる。医療に対する国民が考える重点課題として、60歳代(62.7%)、70歳以上(66.8%)は長期入院施設の整備をトップに挙げている(日医総研 第5回日本の医療に関する意識調査)。事情があり自宅での療養が難しいギャップ・シニアにとっては切実な問題である。

9 「そなえ」 病気、介護、入院入所

ギャップ・シニアにとって「そなえ」の第一はお金。治療、入院、場合によっては手術など大きな支出を覚悟しなければならない。健康保険でカバーできたり「高額療養費制度」で一部が戻ってきたりするにしてもお金は必要だ。世帯主が65歳以上の世帯では、貯蓄は全世帯平均の約1.4倍(2,499万円)で、貯蓄の主な目的は「病気・介護の備え」が62.3%で最も多い(内閣府 平成28年版高齢社会白書)。

抱えているギャップが大きくなったときの医療や介護をどうするかにも「そなえ」が問題になる。要支援、要介護のケア・シニアに比べ、ギャップ・シニアはサポートする専門家が身近にいないため、医療や介護制度の情報が届きにくい。もし、介護が必要になったとき、自宅で生活を続けるのか、高齢者向けの施設に入るのか。相談する相手が欲しい。

選択肢が増えつつあるなかでギャップ・シニアがショッピングセンターなど日頃出かけるところで気軽に相談できる場や、ネットで情報を得やすくする仕組みがあれば「憂い」は小さくなるに違いない。日本総研が中心になって活動している「ギャップシニア・コンソーシアム」が提唱している高齢者向けに商品・サービス情報を探索・提案するシステムに注目したい。

10 「すまい」 住み続けるために

シニアの住まいは築年数を経たものが多く、バリアフリーや断熱面でも十分な対応が取られていなケースが多い。調査によると「手すり」は持ち家の52%に設置されているが、段差をなくす施設などはいずれも2~3割という現状である(総務省 住宅・土地統計調査)。ギャップを抱えると段差(高さ)だけではなく、暖差(ヒートショック)にも気をつけなくてはならない。

いまの住まいに住み続けるためにはリフォームが必要となる。リフォームの目的を見ると「老後に備えたり、同居する高齢者等が暮らしやすくするため」「健康増進や病気予防に配慮した室内環境にするため」という回答が60歳代、70歳代で他の世代より高い(住宅リフォーム推進協議会 第13回 住宅リフォーム実例調査)。

リフォームの内容も「段差の解消、手すりの設置」といったバリアフリー対応が増加している。さらに、ギャップ・シニアの場合は要支援、要介護になった場合に備えて、介護の専門家と相談しながらリフォームを計画する必要がある。

ギャップ・シニアを想定した10の切り口まとめ

1 「わかさ」 気持ちの若さ
2 「けんこう」 心もからだも健やかに
3 「きぼう」 健やかな日々を取り戻す
4 「きずな」 夫婦、親子、ペット
5 「ともだち」 励ましあう
6 「じぶん」 気持ちの年齢、自信
7 「じゆう」 買い物、お出かけ、旅行…
8 「いりょう」 病院、治療、リハビリ
9 「そなえ」 病気、介護、入院入所
10 「すまい」 住み続けるために

10の切り口を活かした製品やサービスの発想方法

シニア向けの製品やサービスを考えるとき、シニアのことはよくわからない、どこから手をつけてよいかわからない、そんな時のアイデア出しに活用できる。

やり方は至極簡単。それぞれのキーワードと貴社のシーズ(技術や提供できるサービス)を掛け合わせることで、シニアに向けた新しい製品やサービスが浮かび上がってくる。それらすべてがその通りできるというものではないが、数多く出すことで、多くのヒントが得られる。

一つの切り口と一つのシーズであれば範囲は広くなり、出て来るアイデアも数が多くなる。切り口の数を増やせば、範囲が狭くなる分、切っ先が鋭くなる。

以下に「アクティブ・シニア」での宿泊施設の例を紹介しておく。発想の結果は一例である。ぜひ、お試しいただきたい。

この「発想チャート」を使ったワークショップ式の半日セミナーも実施しているので、興味のある方はお問い合わせいただきたい。

他に、「アクティブ・シニア」
https://www.nspc.jp/senior/archives/4191/
「ディフェンシブ・シニア」
https://www.nspc.jp/senior/archives/4363/
に向けた10の切り口も用意している。

・ケアシニア

については引き続きご紹介してゆきたい。

シニアマーケティング研究室 倉内直也